LOGIN「伝えにくいことって……」
はっ! もしかして、この間ボール遊びをしていて教会のステンドグラスを割ったから、罰が与えられる⁉
「いいえ。私は女神ですから、そのようなことで怒ったりはしません。ですが、あなたはきちんと謝ることのできる大人になれると良いですね」
「はい……ごめんなさい」
黙って逃げてごめんなさい……。
「許しましょう。ですが、伝えたいのはそのことではありません」
あれ? ミィシェリア様って、さっきわたしの心の声に返事しなかった?
「ええ、あなたの心の声は全部聞こえていますよ。私は女神ですから、信徒の心の声を聞くことができます。神と子の間に隠しごとはできませんから、裏表なく、清廉潔白に生きるように努力をしてくださいね」
おお、女神よ。
わたしは一点の曇りもない清い心の持ち主です。 やましいことなどこれっぽっちも考えておりませぬ。ギフトされるスキルでお金儲けをして、その資金を使って王都で開かれるパーティーに参加して、王子様や貴族様に見初められて玉の輿に乗ろうなんて微塵も考えておりませんよ?「10歳にしてそこまで明確な人生設計ができているとは……末恐ろしい子ですね。……もしやすでに記憶が戻りつつあるのでしょうか」
「かっこいい旦那様を捕まえることがわたしの人生最大の目標です! ママを見てそう思いました! わたしのパパは愛人を作って家を出ていったのでー。そんな糞野郎と結婚しないためにも、特別なギフトをですね……」
寝ていてもお金が稼げて、王子様が勝手に言い寄ってくるスキルをください!
「……そう、ですか。それは大変なことで……。ですが、実の父のことを糞野郎などと言ってはいけませんよ。あなたのご両親が愛し合ってあなたが産まれた。そのことを常に感謝し、強く生きていきましょう」
「でも、あいつのせいでママはめちゃくちゃ苦労してますし、わたしが玉の輿に乗って早く楽をさせてあげたいなって。あ、そういえば、さっきおっしゃっていた記憶、とは何ですか?」
「そうでした……。アリシアと話していると、どうもペースが狂いますね……。あなたに伝えておかなければいけない大切なこと、それは……本来あなたはこの国の人間ではない、ということです」
「……え? わたしこの国の人間じゃない? もしかして……ママの子じゃないんですか? ということは、あの糞野郎の子供じゃない⁉ ヒャッハー!」
わたしは驚きのあまり、思わず顔を上げる。
視線の先には女神ミィシェリア様が! なんとそのご尊顔をまともに目にしてしまった。しまったぁぁぁぁぁ!
やっちゃったぁぁぁぁぁぁー!「絶対に顔を上げてはいけない」と、なんか妙にねちっこい視線で嘗め回すように見てくるハゲの司祭様に念押しされていたのに!
ぐわー。これはギフトスキルがもらえなくなってしまうー! わたしの完璧な玉の輿計画がぁー!「アリシア、ちょっと落ち着きなさい! 私の顔を見てはいけないなどという決まりはありませんから。まずは静かに! 私の話を聞いてください!」
え、罰はないの?
なーんだー。ビビッて損した!「ウソついたな、ハゲ」
それならじっくり見ちゃおう見ちゃおう♪
あのハゲみたいに嘗め回すように見ちゃおう♪おおー、女神様……めっちゃ美人じゃーん! さっすが愛の女神! おっぱい大きいし、腰が細いし、おしりも大きい! 髪もふわふわーでキレイ! おっぱい大きいし、おっぱいも大きい……。
くそっ、うらやまけしからん! もぎ取りたい……でも女神様だし……。落ち着けっ、わたしの右手っ! だけどさー、こんなふうになれたらさー、きっと王子様だってわたしに振り向いてくれるかもしれないよねー。いいなあ。女神様かあ。「ねぇねぇ、ミィシェリア様ー。なんであのハゲはミィシェリア様の顔を見てはいけないなんて言ったんですかねー?」
「あなた急に気安いですね……。それと他人の容姿のことを悪く言うのはやめなさい」
へーい。以後気をつけまーす。
「……まあいいわ。神の顔を知らないほうが信仰心が高まるとして、実際そのように指示する女神もおります。ですが、私は見られて困るような顔をしていませんし? むしろ積極的に見て『うつくしいですね~』『ミィシェリア様最高ですね~』と褒めて崇めてほしいですし?」
なんだこの女神……。言ってることがうちのお姉ちゃんと一緒じゃん。
マジ引くわー。「そこで引くんじゃありません! 私は女神ですよ! 敬って崇め奉りなさい。……いいです、そんなことよりも、です! 話を戻しますよ、いいですか⁉」
あれ? 眉間にしわ? 怒らないはずの女神様が? おや、まさか?
「もしかして、ミィシェリア様怒ってる?」「怒ってません! 早く話を進めたいだけですから、ちゃんと聞いてください!」
ミィシェリア様が地団駄を踏んでいる。
めっちゃ怒ってるじゃん。でも、すまし顔と違って怒っている顔はかわいらしいな……。美人で巨乳は何をしてもかわいい……うーん、これはこれでやっぱりイラっとする事実だわ。 だけど……これは将来のために覚えておこう。わたしが将来美人になった時、こういうふうに振舞えば王子様を落とせるんだな、と。メモメモ。 「はーい。わたし、この国の人間じゃないって説明をお願いしまーす」「もしかして、この話、そんなにショックを受けていないんですか?」
「いやいや、十分に驚いてショック受けてますって。ただ驚いたところから時間が経ちすぎて、もうすでにちょっと冷めてきてるだけでーす。だからこれ以上冷める前に驚きたいんで、早めに説明をお願いしまーす」
「まったく誰のせいで……。まあいいでしょう。そう、先ほどあなたはこの国の人間ではないと言いました。わかりやすく言うと、あなたはこの国で繰り返される運命の輪とは別のところ、いわゆる異世界からやってきて、新たにこの国に転生した人間なのです」
「なんだってぇぇぇー。それは大変だ……っていわゆる異世界? 転生? えっと、まず国ってなんですか? 世界って何ですか?」
何言ってるんだ、この女神様。
運命の輪? 異世界? 難しすぎてさっぱりですよ。「そうですね……。10歳のあなたのままでは、この話を理解するのは難しいでしょう。ですので、今から前世の記憶を呼び起こします」
「前世の記憶? 前世って何ですか?」
また新しい言葉。
難しいことはいいから、早いところお嫁さんスキルくれないかなあ。「あなたの質問に1つ1つ答えていたら、いくら時間があっても足りません……。もう説明はあとにしますから……。とにかく、目を閉じ、頭を垂れなさい」
そう言うなり、ミィシェリア様は強制的にわたしの頭の上に手を乗せてきた。
熱っ! 女神さまの手から、炎が燃えるような熱……いや、何か別のものが流れ込んでくる。目の前が白く……頭が燃える……。
やばい、死ぬ⁉ でも、お嫁さんになる前には死ねないっ!「洗礼式、早く始めてくださいよー」 ミィシェリア様が再びわたしの頭の上に手を置いたまま、特に何もせずに数分が経過していた。「これで洗礼式を終わります。アリシア、あなたは女神ミィシェリアの名のもとに洗礼を受け、仮成人となりました。おめでとうございます」「へ? 終わり? さっきみたいなぐわーって熱くなったり、なんか光がパーっとなったり、天井から天使が舞い降りてきたり、女神の祝福のキスとか……そういうのないんですか?」「ありませんね。洗礼式はあなたの内側にある鍵を開けるだけですから、私から付与するものは何もありません」 なんだーそれー。期待して損したー。演出弱いなー。ゲームだったらここでプレイやめてるよ?「洗礼式って地味なのね……」「洗礼式とは本来厳かに行うもの。地味でけっこうです。それよりも、ステータスを開くことができるようになっているので確認してみなさい」 ミィシェリア様はわたしの頭から手を離す。 おお、そっか。ステータス解放されてるんだ!「えーと『システムコール:ステータス』オープン!」 さっそく教わっていた呪文を唱えてみる。 って、前世の記憶が蘇った今だからわかることだけど、システムコールって、なんかゲームのプログラムみたいね……。 とか考えていると、目の前にステータス画面が広がって見えてくる。拡張空間ってやつ?「おー! ホントに出た! ゲームみたい!」「そうですね。あなたの前世の記憶ではこのような画面を日常的に見ていたようですから、馴染みがあるのでしょう。数値はどうですか?」--------------------------アリシア=グリーン種族:人族Lv.10HP:200MP:100STR≪筋力≫:2 VIT≪体力≫ :5DEX≪器用≫:7AGI≪敏捷≫:3INT≪知力≫:7LUK≪幸運≫:3スキル:なし--------------------------「正直めっちゃ弱い……気がします。全部1桁だし。感覚的には生きていくのがやっと、みたいな?」 軽くショックだわー。異世界転生したら、数値がカンストしていて今すぐでも魔王が倒せるー、みたいな感じじゃないの? 普通の10歳ならこんなもんでしょうね、って感じのステータスだよ。 しいていえば、ちょっと頭が良くてちょっと手先が器用? うん、普通に自覚
ミィシェリア様の手を通じて、わたしの頭の中に、誰かの記憶の断片が流れ込んでくるのを感じる。 これは誰? 男の子? 見たことない服。周りの風景。 あ、待って。なんかちょっと思い出してきたかも。 あ……前世。これが前世なんだ。 わたし、前世では男の子だったんだ。気弱そうであんまりかっこよくない……。王子様とは違う。がっかり。 流れ込んできた記憶、そして知識が紐づいていき、わたしは前世という概念を理解した。 大学。研究。ロボティクス工学。就職活動。 知らない言葉が頭の中に浮かんでは消える。そして脳内に浮かぶ映像とともに理解する。 わたしは以前、こことは違う世界で暮らしていた。 そう、だんだんと記憶がクリアになってきた……。 ボクの人生は、何をやっても裏目に出るアンラッキーな人生だった。 周りからは『逆神』なんて呼ばれていじられていた。別にいじめられていたわけじゃないけど、特段仲の良い友だちもいなかった。 じゃんけんは一度も勝ったことがないし、コイントスすれば全敗。自分で思ったのと反対を選べば正解だと思って、裏の裏をかいたら、普通に裏が正解。 小学生、中学生、高校生、いずれも病気やけがで遠足や課外学習、修学旅行には参加できず。集合写真は右上に別撮りされた切り抜き写真がボクの定位置だった。 大学受験の当日には、インフルエンザにかかって追試験。その追試験の日に電車が大遅延して試験に遅刻。結局それに動揺して回答はめちゃくちゃ。結果浪人。次の年に受験。一浪の末、何とか補欠合格。なんて具合にアンラッキーばかり重なっていた。 あれ? でも大学生より後のの記憶が思い出せないな。 あ、そうか。 ボク、就職活動中で、面接会場に向かう途中に死んだんだ……。 横断歩道に車が突っ込んできて……あのまま、か。おばあさん無事だったかな。 就職活動しないで大学院に進んでたら、今も生きてたのかなあ。 なんだろうね、前世のボクの人生って。思い出してみても、何一つ良いことがなかった気がする。恋愛経験どころか、女の子と話した記憶もほとんどない。そもそも男の子の友だちもぜんぜんいなかったわ。うーん、他人事みたいだけど、ホントむなしい人生……。「どうですか? 前世の記憶の蓋は開けましたが、思い出せましたか?」 ミィシェリア様がわたしの頭の上から手を離す。
「伝えにくいことって……」 はっ! もしかして、この間ボール遊びをしていて教会のステンドグラスを割ったから、罰が与えられる⁉「いいえ。私は女神ですから、そのようなことで怒ったりはしません。ですが、あなたはきちんと謝ることのできる大人になれると良いですね」「はい……ごめんなさい」 黙って逃げてごめんなさい……。「許しましょう。ですが、伝えたいのはそのことではありません」 あれ? ミィシェリア様って、さっきわたしの心の声に返事しなかった?「ええ、あなたの心の声は全部聞こえていますよ。私は女神ですから、信徒の心の声を聞くことができます。神と子の間に隠しごとはできませんから、裏表なく、清廉潔白に生きるように努力をしてくださいね」 おお、女神よ。 わたしは一点の曇りもない清い心の持ち主です。 やましいことなどこれっぽっちも考えておりませぬ。ギフトされるスキルでお金儲けをして、その資金を使って王都で開かれるパーティーに参加して、王子様や貴族様に見初められて玉の輿に乗ろうなんて微塵も考えておりませんよ?「10歳にしてそこまで明確な人生設計ができているとは……末恐ろしい子ですね。……もしやすでに記憶が戻りつつあるのでしょうか」「かっこいい旦那様を捕まえることがわたしの人生最大の目標です! ママを見てそう思いました! わたしのパパは愛人を作って家を出ていったのでー。そんな糞野郎と結婚しないためにも、特別なギフトをですね……」 寝ていてもお金が稼げて、王子様が勝手に言い寄ってくるスキルをください!「……そう、ですか。それは大変なことで……。ですが、実の父のことを糞野郎などと言ってはいけませんよ。あなたのご両親が愛し合ってあなたが産まれた。そのことを常に感謝し、強く生きていきましょう」「でも、あいつのせいでママはめちゃくちゃ苦労してますし、わたしが玉の輿に乗って早く楽をさせてあげたいなって。あ、そういえば、さっきおっしゃっていた記憶、とは何ですか?」「そうでした……。アリシアと話していると、どうもペースが狂いますね……。あなたに伝えておかなければいけない大切なこと、それは……本来あなたはこの国の人間ではない、ということです」「……え? わたしこの国の人間じゃない? もしかして……ママの子じゃないんですか? ということは、あの糞野郎の子供じゃない⁉
「アリシア=グリーン。10歳のお誕生日おめでとうございます」「あ、ありがとうございます……女神……様」 わたしは頭を垂れ、跪いたまま冷や汗ダラダラだった。 やばい。女神様の名前、度忘れした……。 なんだっけ……。 ここパストルラン王国では、七神の女神が信仰されている。10歳の誕生日に七神いずれかの女神に礼拝し、洗礼を受けることになっているのだけど、だけど……。 わたしが洗礼を受けるのは……えっと、愛の女神様なんだけど……名前が……そうだ、ミィシェリア様! あっぶない、思い出したー!「女神ミィシェリア様。ご機嫌麗しゅう」「もし? 聞いていますか? あなたの名前はアリシア=グリーンですね?」「ははー! その通りでございまするー。あなたの熱烈な信徒、アリシア=グリーンはここに居りまするー」 地面におでこをこすりつけて返事をする。 ママに習った通りだ。決して女神様に失礼のないように。くれぐれも機嫌を損ねないように。今日は大切な仮成人の洗礼式なんだから! わたし、アリシア=グリーンは今日が10歳の誕生日なのです。つまりもう仮成人! 立派な大人なのです! だから礼儀正しく1人で礼拝もできるのですよ。えっへん! ん? 誰だぁ⁉ 今「パッと見、少年なのか少女なのか迷う」って言ったヤツぁ! 手を上げろ! この胸が目に入らぬか! 最近ちょっと膨らみ始めたんだぞ! もうレディーなのだよ、レディー! わかる? おいっ、もう二度と幼女って言うなよ⁉ 絶対だぞ⁉ 近所に住んでるルースちゃんは同い年でEカップあるって? 知らんわっ! バンパイアと人間を一緒にすんなよ……アイツことあるごとに胸のサイズ自慢してきやがってぇ……。しかもいちいちカレシとか紹介してくんな、ビッチが! わたしだって人間の中ではこれでもけっこう成長早いほうなんだからねっ! 調子に乗ってる巨乳は滅ぶべし! 「アリシア? 聞いていますか?……あなたには、洗礼式を行う前に、とても大切なことを伝えなければなりません」「え、あー、早いところ洗礼の儀式をやって、『システムコール:ステータス』の解放と『ギフトスキル』をいただきたいんですけどー」 あとそろそろ立ち上がっていいですか。石の地面がひんやりしていて冷たくて足がしびれてきたし、ちょっとおでこも痛いです。 洗礼の儀式の中で女神の祝福を賜